first phrase 01


5月3日。
晴れやかな空に、すがすがしい風。すごしやすい天気。
…の、はずだった。


(こんなはずじゃなかったのに!)
私は、学校から駅までの道をそりゃあもう全速力で駆けていた。

やっぱり傘を借りてくるべきだったようだ。
人の厚意は素直に受けておくものだなぁ、なんて思ったところでもう遅い。
一日中晴れが続くでしょう、なんて言ってたお天気キャスターも今頃雨に打たれてればいい。
あぁ、せめて電車に乗るまでくらい待ってくれればよかったのに。
部室を出るときにセットしなおした髪が湿度で広がっていく。
文句を言っても仕方がないのはわかっているけど、頭の中は愚痴でいっぱい。

私の通う高校から最寄り駅をつなぐ道筋のちょうど真ん中くらいに差し掛かったとたん、雨が降り出したのだ。
校門を出るときにすでに雲は広がっていたのに、傘を勧めてくれた友人に従わなかった自分が憎らしい。



目の前で信号が赤に変わった。
まったくもって、ついていない。

この濡れた姿では電車には乗れない。さすがに他のお客さんの迷惑だよね。
どこかで雨宿りするしかないかな。
ため息をつきつつ、ふと、視線を脇にやった。



やけに目に付く、白い花。



そのまま目線を上げると、見覚えのない洋館がそびえていた。
いや、そびえる、という表現を用いるほどの大きさではないか。
一般の住宅よりは大きいだろうが、豪邸というには小さな造りだ。
かといって荘厳な建築様式なわけでもない。
ただ、その屋敷の持つ雰囲気を表す言葉が他に浮かばなかった。



(こんなのあったっけ?)
この道は通学路として毎日通っているし、けっこう目立つこの館に気付かないとは思えない。
なんとなく、気になる。


覗いてみよう。
そう、思いつくまでに時間はかからなかった。


横断歩道を渡るのをやめて、館の方へと足を進めた。
正面から見るとますます威圧感のある建物だ。
白い花の植え込みの先に黒いゲートがある。それを開けば、不思議な洋館へ踏み込める。

なぜだか私はものすごく緊張していた。

私はここへ入って何をしたいのだろう。
雨宿り?世間話?
どんな人が住んでいるかもわからないのに…。



小さい頃から憧れていたもの。
魔法。冒険。モンスター。
ずっとずっと、ファンタジー小説が大好きだった。
ごく普通の生活を送っていた主人公が、不思議な世界に足を踏み入れる。
そんな、とても現実には起こらないストーリーに夢中になってた。
さすがに高2にもなってそんなこと本気で願ってるわけじゃないけど。

突然の雨。
見知らぬ洋館。
その前に立つ、自分。

なんだか、ちょっとおいしい展開じゃありません?




content | next