first phrase 02


気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸をした。

だって、ゲートを越えた途端に化け物が襲ってきたら?
いきなり何かの魔法がかかってしまったら?
もしも異世界なんかにつながってたらどうするの?
…なんて、馬鹿なこと考えてみたりして。


ネバーエンディングストーリーなんか観たからかなぁ。



黒くて重そうなゲートに手を伸ばす。
もしかしたら電気とか流れてるんじゃ…って考えが浮かんだけど気づかないフリをして。

おそるおそる触れてみたら、予想外にすんなり動いて驚いた。
雨で濡れた鉄ごしらえのゲートはひどく冷たい。
見るからに重厚な造りのそれは、軋む音ひとつ立てずに私を敷地内へと導いた。


中に踏み込むと、屋敷の庭は外から見るよりも広かった。
一応ここら辺は高級住宅街で、こんなに大きな土地を持つ家は珍しい。
高級、といっても芸能人とか大富豪が住むようなとこじゃなくて、 ちょっとお金がある家庭が都会の喧騒を避けて暮らす場所。 そんな地域だったはず。
(お金持ちに違いはないか)


人の家に勝手に入り込んで何を考えているんだろう。
私は小さく苦笑して、改めて屋敷を見上げた。


近くで見ればますます大きな屋敷だ。
ゴシック様式のように荘厳なわけじゃないけど、一つ一つの造りが繊細で素敵。
(どうしよう、本気で私好みの家!)
正面の扉はゲートと同じく重厚な造りで威圧感がある。
ピンポンダッシュなんか受けるわけもない古めかしい呼び鈴が着いていた。


正直な話、私はもう雨宿りなんてどうでも良くなっていて。
ただ、この屋敷とそこに住む人に興味があるだけだった。

ゴクリ、とつばを飲み込んで私はそっと呼び鈴に触れた。


ほんの数秒。
緊張と不安が一気に押し寄せる。

すごい偏屈オヤジだったらどうしよう。
邪険に追っ払われるかもしれないなぁ。あぁ、でも普通そうか。
見ず知らずの女子高生(しかもずぶ濡れ)が現れたらいやだよね。

でも、どうせすぐに帰されるなら、ちょっとでもファンタジー気分が味わいたいな。
魔女みたいなしわくちゃなおばあさんとか。
執事っぽいおじいさんでもいい。
あ、でもさすがにこの屋敷で着物とかジャージとかで出てこられたら悲しいかも。
ものすごい美形の男とかだったら、吸血鬼みたいで面白いけどねぇ。


頭の中は完璧に夢見る少女。
小学生のころに読んだファンタジー小説が次々と浮かんでくる。



ガチャ

ドアノブがまわされる音で、私は妄想の世界から引き戻された。
ゆっくりと開かれる扉。
その奥に感じられる人の気配。


「あの…っ」
「ちっ」
私が何か言いかけるのをさえぎるように、彼はそれはそれは大きな舌打ちをした。





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