first phrase 03


「なんなんだ、お前は?」
…なにってただの女子高生。

「どうやってここをつきとめた?」
…駅まで行こうとしただけですが。

「いったい誰の指図だ?」
…まじで何のことですか。


人の顔をみるなり舌打ちなんぞしやがった無礼者は、一気に質問をしてきた。
名前も名乗らなければ、挨拶もしない。
そりゃ、見ず知らずの人の家に興味本位で上がりこもうとした私にも非はあるけどさ。
仮にもレディに対してその態度はどうなの。

とりあえず何か言い返そうとは思っても、言葉が出てこない。
(あぁ、だめだ。頭の中が真っ白だ)
ぼんやりとそう認識する。

それくらい、目の前の男は整った顔立ちをしていた。


「おい、黙秘のつもりか?」
あまりにも何も答えない私に業を煮やして彼は言った。
黙秘も何も、私には何がなんだかさっぱりだし。
何より、ブラウスが肌に張り付いて気持ち悪い。

「あの、とりあえずタオルか何か貸してください」

そりゃ、ね。さすがに図々しいとは思ったけど。
…そんな、呆れを通り越して馬鹿にした顔、しなくてもいいんじゃない?






ものすごぉく嫌そうではあったけれど、結局彼は私のためにタオルを取りに行ってくれた。
無礼者なんて思ってしまったけど、実はやさしいのかもしれない。
部屋の中へと向かう彼の背中を目で追いつつ、私は改めて屋敷の造りの豪華さに驚いた。
凝った造りだけどごてごてとしたいやらしさはない。

やっぱり相当なお金持ちだ。

人の家の経済状況を推し量るのは趣味じゃないけど、 ヨーロッパの古いお屋敷のイメージそのもののこの家が、 私のファンタジー好き魂をくすぐるんだもん。



「まったく、これでいいか?」
玄関でうっとりしていた私を、彼の呆れ返った声が現実に引き戻す。
差し出された真っ白なタオルはとてもやわらかくて、私は思わずほっと息をついた。

「すいません、ありがとうございます。」
「…どうやらただの人間らしいな」
「え?」
そう言った彼の言葉に、私は危うくぽかんと口をあけてしまうところだった。

この人は何を言っているんだろう。

「いや、こちらの話だ」
ゆるく首を振り、彼は前言撤回しようとしているようで。
予想外に、冗談とか言う人だったんだろうか。
だったらタオルのお礼に、のってあげなきゃ失礼だよね。

「やだなー、吸血鬼かなにかだとでも思いました?」
こんな素敵にお屋敷ですしねー、とか続けようとすると、ギョッとした彼の視線とぶつかった。
私を凝視するその姿は、まるで図星だと言っているかのよう。

「…え?」


いったいこの微妙な空気をどうしたらいいのか。
今度こそ、私は口をぽかんと開けたマヌケ顔で固まった。






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